〜消防設備点検のプロが解説〜
火災は一年を通じて発生しますが、実は季節によって発生件数や原因に特徴があることをご存じでしょうか。消防庁の統計や現場での実務経験を踏まえると、「冬場に火災件数が増える傾向」が顕著に見られます。この記事では、火災が多い季節とその主な原因について、消防設備点検業者の立場から専門的に解説いたします。
1. 火災の発生件数と季節性
火災統計(消防庁「火災の実態」)によれば、日本における火災の出火件数は年間約3万〜4万件にのぼります。その中でも、出火件数が特に増えるのは 12月から翌年3月の冬期 です。
季節ごとの傾向
- 冬(12〜3月)
暖房器具の使用増加、空気の乾燥、年末年始の火気使用が重なり火災件数が最も多い。
- 春(4〜5月)
農作業や野焼きによる火災、花見や行楽に伴う火気使用が目立つ。
- 夏(6〜8月)
花火やバーベキューなど屋外火気使用による火災が増加。ただし全体件数は冬ほどではない。
- 秋(9〜11月)
空気が乾燥し始め、落ち葉焚きや行事での火気使用が増える。特に11月は空気の乾燥により小火(ボヤ)が多発。
このように「冬場が突出して多い」一方で、各季節ごとに特有の原因がある点が特徴です。
2. 冬場に火災が多い主な原因
(1) 暖房器具の使用
- ストーブ火災
石油ストーブや電気ストーブの周囲に可燃物(カーテン、衣類、新聞紙など)が置かれることによって出火。
- 電気ヒーターのトラッキング現象
長期間差しっぱなしのコンセントにホコリが蓄積し、湿気と相まって絶縁不良を起こす。これを「トラッキング火災」と呼ぶ。
(2) 空気の乾燥
冬季は湿度が低下し、可燃物の着火点が下がるため、わずかな火種でも火災に発展しやすい。
- 木材や紙製品は湿度が低いほど燃えやすく、延焼速度も加速。
- 消防法上でも「乾燥注意報」発令時は火気取扱いの強化が求められる。
(3) 年末年始の特殊要因
- 調理火災:揚げ物調理中の出火が多発。特にガスこんろの SIセンサー未搭載機 を使用している家庭では注意が必要。
- 電飾火災:クリスマスや正月のイルミネーションによる過負荷(定格電流を超える使用)が原因で出火。
3. 春から秋にかけての火災要因
春(野焼き・花見シーズン)
- 農作業での枯れ草焼却から延焼。
- 花見での炭火・ガスコンロの不適切使用。
夏(屋外イベント・雷火災)
- 花火の不始末。
- バーベキューの炭火を完全消火せず放置。
- 落雷による「直撃雷火災」や電気系統損傷による出火。
秋(乾燥と行事)
- 落ち葉焚きの延焼。
- 文化祭や地域行事での模擬店火災。
4. 出火原因の分類(消防法上の区分)
消防庁の統計による出火原因の主な分類は以下の通りです。
- 放火・放火の疑い
火災原因の常に上位。特に空き家や駐車場で発生。
- たばこ火災
消火不十分な吸殻や寝たばこ。
- こんろ火災
調理中の油の過熱による発火。
- 電気火災
トラッキング現象、配線のショート、過電流による出火。
- ストーブ火災
可燃物との接触、転倒による油漏れ着火。
消防設備点検の現場では、特に「電気火災」と「ストーブ火災」のリスク低減が重要視されています。
5. 火災拡大を防ぐ設備とその点検の重要性
火災が発生した場合に被害を最小限に抑えるのが「消防用設備等」です。消防法第17条により、建物用途や規模に応じて設置義務があります。
代表的な設備と点検のポイントは以下の通りです。
- 自動火災報知設備
感知器(煙感知器・熱感知器)の動作確認。ホコリや経年劣化による感度低下に注意。
- 消火器
使用期限(製造から10年が目安)。耐圧試験、薬剤残量確認。
- 屋内消火栓設備
ポンプ・ホース・ノズルの作動確認。水圧不足やホースの劣化破損に注意。
- スプリンクラー設備
定期的な散水試験。弁の固着や配管腐食は要修繕。
- 非常用照明・誘導灯
バッテリー寿命(約4〜6年)。停電時点灯確認。
これらは「機能点検(6ヶ月ごと)」と「総合点検(1年ごと)」が消防法で義務付けられており、我々消防設備点検業者が担う重要な役割です。
6. 火災予防のためにできること
建物オーナー・管理者向け
- 定期点検の確実な実施
- 避難経路・消火設備の周知訓練
- 分電盤・配線の過負荷チェック
一般家庭向け
- 火気使用中はその場を離れない
- コンセント周りの清掃と節電タップの適正使用
- 住宅用火災警報器の設置と電池切れ確認
まとめ
火災は「冬に多い」という統計的事実がありますが、その背景には暖房器具の使用、乾燥、大掃除・年末行事など複数の要因が重なっています。春夏秋も油断できず、それぞれの季節特有の火災リスクが存在します。
そして重要なのは「火災を完全にゼロにはできない」という現実です。そのため、消防用設備の設置・点検・維持管理が被害拡大を防ぐ最後の砦 となります。
私たち消防機器点検工事業者は、皆さまの建物と命を守るために、法定点検はもちろん、現場での実践的アドバイスを行いながら火災予防に取り組んでおります。
「火事は他人事」ではなく、日常のちょっとした注意と定期点検が、重大な被害を未然に防ぐことにつながるのです。
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